Enjoy A New Island

ボーイミーツガールを研究するブログのような何か

All You Need Is Killをボーイミーツガール的に分析する

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はじめに

本稿では桜坂洋著『All You Need Is Kill』を扱う。

コミカライズやハリウッド映画化もされているが、ここで論じるのは原作小説のほうである。

本作はいわゆるループものであるが、同時に主人公のキリヤ・ケイジ(以下ケイジ)とヒロインのリタ・ヴラタスキ(リタ)のボーイミーツガールでもある。

繰り返す、ボーイミーツガールである。

よってこの作品もボーイミーツガール的に分析していこうと思う。

 出会い

物語はケイジの悲惨な初陣(ここでいう初陣とはループする前の、つまりループ0回目の戦いのことである)から始まる。

同僚があっけなく死に、自分も敵であるギタイの攻撃を喰らって死にかけている。

弾切れを起こし、ギタイが迫りくる中で彼が死を覚悟した時、彼女は現れた。

ジャケットに赤い塗装を施し、バトルアクスを持った女。

それがリタであった。

彼女は戦場のさなかこう言った。

「ジャパンのレストランでは食後のグリーン・ティーは無料だと本に書いてあったのだが……本当なのか?」

戦の場には似つかわしくないこのセリフはのちにキーワードとなる。

自分の命がもう長くないことを告げられた彼は、彼女に守ってもらうことになりながらも最後に一泡吹かせてやろうと、あるギタイに狙いを定めパイルドライバを撃ち尽くす。

そのギタイを倒すことはできたものの、それと同時に彼は意識を失ってしまった。

……はずだった。

 

さて、この出会いは以前書いた「仮のミーツ、真のミーツ」で言うところの仮のミーツである。

真のミーツはどこにあるかというとそれは後述する。

用語についてはこちらの記事で説明している。

boymeetsgirl.hatenadiary.com

本作において、二人の最初の出会いはケイジの危機にリタが駆け付けるというものだ。

この出会い方を仮に「ヒーロー型」と呼ぶことにする。

あくまで僕の中の勝手なイメージだが、少女漫画では割とありそうな出会い方かもしれない。

ヒーロー型の特徴は、助けてもらった側がヒーローに対し憧れなどの好意的な感情を抱くようになるところにある。

要は出会った最初から好感度が高い状態にあるということだ。

本作においては、ケイジはループを利用してリタの実力に近づくことを目標にするようになる。

その理由には彼女が周りから英雄視されているからというのもあるだろうが、最初の戦闘で助けてもらったことによって彼女に憧れを抱いたということも大きいだろう。

 

ループ&ループ

何回かのループを通じて戦場から逃げられないことを知り、ケイジはこのループを抜け出して次の日を迎えてやろうと決意する。

 

ループを繰り返してケイジはどんどん戦闘慣れしていくようになり、一騎当千の働きをするもループを抜け出せないでいた。

 

158回目のこと。

ケイジが毎度のごとく敵を蹴散らしていると、リタからの通信が入る。

「おまえ、いま……何週めなんだ?」 

そう、この言葉からも分かる通り、リタもループを続けている者であった。

話はここからいったんリタ視点に切り替わる。

 

リタはケイジより前からループに巻き込まれていた。

数々のループを繰り返すことで戦闘を極め、また次の日を迎えるための方法をつかんでいた彼女は、幾多の戦場を経験していた。

そして、ケイジのいる戦場にやってきたのであった。

リタはループを続けていく中で孤独感に苛まれていた。

いつか自分と同じようにループを経験するものと出会えたならという淡い夢を抱きながら、彼女はケイジに出会った。

それはケイジにとって159、リタにとって211回目のループでのことだった。

「ジャパンのレストランのグリーン・ティーはたしかに無料だ」

この言葉にピンとこない人は第1章をもう一度読み返そう。

グリーン・ティーのくだりはさらに後でも使われる。

その言葉は自分と同じようにループを経験するものが現れた時のための合言葉のようなものだったのだろう。

リタは数多のループを経てとうとう仲間と出会ったのだ。

ケイジの言葉にリタは涙する。

 

ここが本作における真のミーツではないかと思われる。

このミーツにおいて用いられているのはすなわち「共有」である。

何かを互いに共有するというのはボーイミーツガールにおいて関係性を深める重要なアイテムだ。

多く用いられる共有としては秘密の共有が挙げられる。

本作ではループという行為、「グリーン・ティー」という合言葉が共有された結果、二人の関係性が急速に向上する。

これらも二人だけにしか知りえないことであるから秘密の共有に当てはまるだろう。

それと、真のミーツの配置場所から考えるに、本作は「出会いから始まる物語」というよりは「出会って終わる物語」に分類されるのではないだろうかとも思われる。

 

そして明日へ

ケイジとリタが巻き込まれているループは、敵であるギタイが勝利するために用いていたのが偶然二人に授けられたものであった。

ループの仕組み、明日へ行く方法を知ったケイジ。

ケイジとリタはいよいよ明日を迎えるための戦いに赴く。 

ループを終わらせるためのギタイを倒せば明日への扉が開く。

そのはずだった。

しかし、159回目のループでの行動は失敗に終わる。

 

160回目。

ケイジはリタを前回と同じように泣かせる。

こう書くとひどいことをしているみたいに思われるだろうが、そうではない。

この今日で二人の関係は一気に近づく。

コーヒーを淹れながらしばしの幸せなひと時を過ごす二人。

ケイジは言う。

「この戦いが終わったら、コーヒーのお礼に最高のグリーン・ティーをごちそうしてあげるよ」

ケイジさん、そのセリフはフラグです。

そんなつかの間の幸せは敵襲とともに崩れる。

過去のループでは発生しなかった出来事に驚きを隠せないケイジ。

ループ能力はもともとギタイが未来の戦いに勝利するためのものである。

ギタイ側が勝利のために作戦を変更したからだろう、とリタは冷静に告げる。

ケイジとリタはジャケットを着て戦闘を開始する。

そして、ギタイ・サーバを見つける。

しかし、その時突如としてリタがケイジに襲い掛かる。

リタは言う。

ギタイのループを断ち切るにはどちらかの犠牲が必要になると。

ケイジとリタが強くなるために繰り返したループが皮肉にも二人の仲を引き裂く原因になったのである。

二人は明日という一人しか通れない扉を目指して殺しあうことになる。

リタを憧れとして、リタに追いつくためにリタを見てきたケイジ。

二人の戦いはそこが勝敗を分けた。

リタの動きを読み、彼女を仕留めるケイジ。

愛する人を自分の手で殺めなければならなかったのだ。

その後、ケイジはリタが前からこうなることを予測して死ぬことを決めていたことに気づく。

死にゆくリタに自分の想いを告げ、ケイジはその最期を看取る。

戦場の女神は死に、明日が訪れた。

 

リタの遺志を受け継ぎ、人類を勝利に導くことを決めたケイジ。

彼は最後にリタの淹れてくれたコーヒー──それは時間が経って青緑色のカビが浮いていたが──を飲み干し、物語が終わる。(ここの青緑色のカビが浮いたコーヒーはグリーン・ティーのメタファーであると思われる)

 

関係性の変化と主要なイベント

さて、本作において二人はどんなイベントをこなしどのように関係性を変化させたのだろうか。

その点について簡潔に書いていこうと思う。

ざっくりと書くと、

 

1.出会い(仮のミーツ)、ケイジがリタを憧れの対象として見るようになる。

 

2.グリーン・ティーのくだり、リタ涙する(真のミーツ)。共有により二人の関係性向上。

 

3.最終決戦。別れ、リタ死亡、ケイジ明日へ。

 

となる。

普段は起承転結で物事を考えがちだが、こと本作に関しては起承転結より序破急で考えていったほうがしっくりきた。

3を2つに分けることも可能だとは思うが。

要は最低限の要素を抜き出すと、出会い(仮のミーツ)→グリーン・ティー(真のミーツ)→別れという流れである。

出会いに始まり、別れに終わるのはボーイミーツガールの王道の一つだ。

この結末はハッピーエンドとは言えない。

僕の意見としては、ボーイミーツガールとしてはバッドエンド、物語としてはグッドエンドだ。

 

(追記)

書いていて思ったが、起承転結で考えることも十分に可能である。

その際は仮のミーツ→真のミーツ→160回目→別れという流れで考えるのがいいだろう。

 

おわりに

本作はループものとしては定番のトライアンドエラーを繰り返す物語である。

そこにケイジとリタのボーイミーツガール要素を入れてはいるのだが、いかんせんボーイミーツガール的視点で見た場合はボーイミーツガール要素が薄いと感じたところがなくもない。

それが顕著に感じられたのはラストのケイジとリタの戦いである。

本来ここで感情移入すべきなのだろうが、あまり入り込めずあっさりと読んでしまったのが正直なところだ。

だが、このページ数で考えると十分なほどにはボーイミーツガールではある。

ページ数がもう少しあれば……と思う。

しかし、ボーイミーツガールSFとしてはハリウッド映画化されるくらいには面白い作品だ。確かに読んでいてワクワクする物語だった。

であるから、SFがメイン要素であって、ボーイミーツガールはサブ要素であると捉えるくらいが読む際にはちょうど良いのかもしれない。

ともかく、面白さは折り紙付きである。