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ボーイミーツガールを研究するブログのような何か

時をかける少女をボーイミーツガール的に分析する

はじめに

本稿では筒井康隆著『時をかける少女』を扱う。

本作は何度も映像化がなされているため、年代に関係なくご存知の方も多いはずだ。

今回はそれら映像作品ではなく、原作に収録されている表題作「時をかける少女」をボーイミーツガール的に分析していく。

 

出会い

ある日の放課後、和子は誰もいないはずの理科実験室で何やら物音がするのを聞いた。

不審に思っていると、やがてガラスの割れる音がしたので和子は中へと入る。

すると試験管の一つが割れて液体がこぼれており白い湯気を立てているのを発見し、また黒い影が視界に入った。

おっかなびっくり和子がその影の正体を突き止めようとすると、影の向かった場所には誰もいなかった。

 

これが本作における和子と黒い影の出会いの場面である。

互いに出会ってはいるが、まだ和子は黒い影の正体を知らない。

和子が黒い影の正体を知ってお互いの存在を認識した時、それは終盤にあるが、その時こそが二人が真に出会ったと言える状態となる。

よって、この時点での二人の出会いは真のミーツではなく仮のミーツである。

このように仮のミーツによって物語が始まり、終盤に真のミーツが行われることで物語が終わる話であるため、本作はボーイミーツガールにおける「出会って終わる物語」に分類される。

 

たったひとつの冴えたイベント

話の中で起こる出来事を僕はただの出来事とイベントに分けている。

出来事はとにかく起きた事柄、イベントはボーイとガールの関係性を変化させる事柄のことを指す。

さて、本作におけるイベントはいくつあるか。

これがなんとひとつしかないのである。

 

いろいろな事件が起こった後、和子はタイムリープの能力を使い、そもそもの始まりの四日前にやってくる。

そして、黒い影の正体を突き止めるため理科実験室で待ち伏せをする。

やがてやってきたある人物。

それは意外なほど身近な存在だった。

黒い影の正体は一夫だったのだ。

ここが真のミーツである。

自分が未来人であること、未来のことなどを説明する一夫。

一夫が自分に説明してくれることに疑問を感じる和子。

その理由を一夫は打ち明ける。

「じゃあ、いってしまおう。きみが、好きになったからさ」

ここ、ここである。

二人の関係性を変化させるイベント、それはこの告白だけである。

正直に言ってしまえば少ない。

しかしながら、告白の持つ効果の大きさというのは言わずもがなである。

相手に想いを打ち明ける。

その行為がどれだけ関係性に変化を与えるか。

告白とは最大級のイベントと言っていいだろう。

未来から帰るために記憶を消さなければならないと話す一夫。

和子はもう二度と会えないのか、と尋ねる。

一夫はいつか、別の誰かとしてきっと会いに来ると言う。

そして、人々の記憶を消して一夫は未来へと帰っていく。

一夫の記憶を覚えている者は誰もいない。

しかし、和子はラベンダーの香りをかぐと思うのだ。

いつか素敵な誰かが自分の前にやってくると。

 

信頼関係の構築

では、二人の間に最終的に信頼関係は構築されたのか。

本作の場合の信頼関係とは恋愛関係である。

一夫は和子に告白をした。

それによって和子はどんな反応をしたか、列挙していこう。

”和子のほおは、心ならずも赤くほてってきた。”

”和子はがらにもなく、ただとまどい、返すことばに困って、黙ってうつむいてしまうだけであった。”

”これ以上一夫から、ひねくれた子だと思われたくなかったので、やっと口をつぐんだ。”

”しかしその乾いた口調は、ますます和子の心をかれにひきつけるのだ。”

”ものわかりの悪い女の子とは思われたくない──和子は黙りこんだ。”

 これらの行動からわかる通り、告白を受けて和子のほうもまんざらでもない、むしろ好きであると思われる。

和子は別れに涙する。

この時の涙は友情からくるものでもあり、恋愛感情からくるものでもあると考えられる。

ということは最終的には記憶を失ってしまうものの、和子のほうも一夫に対して並々ならぬ感情を抱いていると言えるのではないか。

であるからして、両者が互いのことを特別な存在だと思っているということである。

つまりは信頼関係は構築されているのだ。

 

よって、本作は出会い、イベント、信頼関係の構築とボーイミーツガールの3要件を満たしているボーイミーツガール作品ということになる。

 

おわりに

時代を超えて読み継がれる作品、それが本作である。

読み継がれるということはそれだけ普遍的な何かを持っているということであり、その何かにはボーイミーツガールであることも含まれていると個人的には思う。

しかし、分析してみるとボーイミーツガール要素は薄いと感じられる。

なにせ、イベントが告白以外にないのだ。

告白というイベント自体が強烈なものであるとしても、もう少しイベントを足してもいいのではないかと思われるが、それを入れてしまうと誰が黒い影の正体なのかわかってしまうから入れなかったのだろうか。

だが、それでもやはり本作はボーイミーツガールであるし、本作はボーイミーツガールであるか? と問えばおそらく多くの人がボーイミーツガールであると答えるだろう。

いわば本作は最小限ともいえるボーイミーツガール要素で成り立っているSFボーイミーツガールジュヴナイルなのだ。

この最低限のボーイミーツガール要素だけで万人にボーイミーツガールであると思わせる絶妙なさじ加減は、物語の側面にボーイミーツガール要素を入れこもうと考える人には参考になるのではないだろうか。

逆に言えば、ボーイミーツガールを話のメインに据えようとする人にはお勧めできない作品である。

なにはともあれ、もはや古典と化した本作であるが読み継がれるだけの理由はあると感じた。

ボーイミーツガールは時代を超えるのだ。

時をかける少女 〈新装版〉 (角川文庫)

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